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若き10代目が守る、250年続く老舗ぶどう園

フルフム編集部

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雄大な山々に囲まれたぶどうの一大産地、長野県須坂市。そこに、江戸時代から250年もの間受け継がれてきた、なかむら果実園があります。一時は園主の高齢化によって廃業の危機にあった農園を継いだのは、東京でマーケティングの仕事をしていた25歳の中村拓哉さん。中村さんは、なかむら果実園の10代目です。これまで受け継いできた伝統的な農法だけでなく、さらに新しい技術を学ぶために二年間の修行を経て、栽培方法の研究や、持続可能な農業へ取り組んでいるそうです。
農園の見学をさせていただきながら、中村さんに詳しくお話をお聞きしました。

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フルフム編集部:インパクトのあるトラの風船が目に入りましたが、あれはなんでしょうか?

中村さん(以下、中村):獣害対策で父が買ったものです。

フルフム編集部:不思議な光景ですね。何の動物が出るんでしょうか?

中村:ハクビシンです。うちは今まで出てなかったんですけど、今年なぜか急に出始めて。袋を開けて取って、皮を剥いて食べるんです。朝、皮がたくさん落ちているんですよ。

フルフム編集部:皮まで食べないんだ…。この農園ではどんな種類のぶどうが栽培されているのでしょうか?

中村:シャインマスカットと巨峰と、ナガノパープルを育てています。今、クイーンルージュという新しい品種も作っているんですけど、まだ販売できる段階じゃなくて、採れるのは来年かなーと考えています。

フルフム編集部:ご実家でも農園をやられてたのに他の農家さんに師事を仰いだのはなぜでしょうか?

中村:それはもう単純に、新しい風を吹き込みたかったのが大きな理由です。今までのやり方でもそれなりにできるとは思うのですが、そこからさらに一歩上の段階へ進むには、新しい価値観や考え方を取り入れる必要があると感じました。スパイスじゃないですけど、それを加えたいな、と。他の農園のやり方を学んで、 取り入れられそうなところは全部取り入れる。合わないところは参考までに。そういう形でやりたかったんです。

フルフム編集部:広い視野で見られているんですね。

中村:でも、大変でしたね。

フルフム編集部:どういったところですか?

中村:休みがなかったですね。農業研修制度を使っていたのですが、1週間のうち、5日か6日は他の農家さんのところへ行って修行して、残りの1日か2日は自分の農園の仕事をしていました。

フルフム編集部:修行しつつ、家の農園のこともやられていたんですね。

中村:それが1年目で、その時期が一番辛かったですね。2年目は、割合を半々にしてもらって、週の半分ぐらいは自分の農園のことをできるようになりました。自分で考えて色々試してみて、失敗したら修行先で教わって、またそれを自分の農園に活かして、を繰り返していました。研修制度が終わった3年目からは、今まで学んできたこと全て取り入れて自分の経営に100%取り組めています。

フルフム編集部:修行ではどんなことを教わったのでしょうか?

中村:僕の師匠は、ぶどう作りをイロハを全て教えてくれました。特に樹や土づくりに関して熱心に教えてくれました。ぶどう作りは極めていけばいくほど、房からどんどん遠ざかっていくって話があるんです。始めたての頃って、房の見た目とかを気にしてしまうんですが、こだわりが強くなってくると、今度は枝に注目していって、その次に土や根っこを見るようになるんですよ。

フルフム編集部:須坂市といえばナガノパープルが有名ですね。栽培が難しいとよく聞くのですが、どういうところが難しいのでしょうか?

中村:簡単に言うと収穫できないリスクが高いんです。ナガノパープルはとってもおいしいんですけど、皮が薄いという特徴がありまして。その皮があまりにも薄すぎて破けてしまう。そうすると、中から汁が出て売り物にならない。それが、収穫の直前、まさに明日から収穫しようかなというタイミングで起こるんです。収穫の直前まで保証ができない場合があるので、必要最低限でしか作っていないです。

フルフム編集部:(房を見せてもらいながら)すごい!色が綺麗な濃い紫ですね。

中村:ナガノパープルの特徴として先に色がつきます。ただ、見た目は美味しそうでも、食べてみたら酸っぱいこともよくあります。作るのも難しいし、割れるリスク・味のリスクもあるし、ほんとにギャンブル(笑)。でも美味しいので、引き合いが強いです。これからの時代、ナガノパープルを作らないとなかなか生き残るのは難しい。それぐらいの覚悟でやっています。

フルフム編集部:販売されているぶどうにはランク付けがありましたが、どのように決められているんですか?

中村:ランクはブロンズ、シルバー、ゴールド、ダイヤモンドの4つがあります。ブロンズとシルバーは、粒の大きさ・房型などの違いでランクを分けていて、鮮度や味は大きく変わりません。贈り物やご自分用として一番売れているランクです。

フルフム編集部:ゴールドとダイヤモンドはどれぐらいの割合で取れるんですか?

中村:どちらもめったにお目にかかれません。ゴールドで1%ぐらい。ダイヤモンドは0.1%です。

フルフム編集部:それはすごい割合ですね!どんな基準で選んでいるのでしょうか?

中村:僕たちは何千何万房のぶどうを見ているので、その中から優劣をつけて上位のものだけを最高ランクに位置付けています。今年は品質がよいので、自信を持ってダイヤモンドランク・ゴールドランクをお届けすることができます。

フルフム編集部:なかむら果実園さんのぶどうを購入したのですが、届いた時に、「朝5時に収穫しました」って手書きのカードが入っていてびっくりしました。

中村:ありがとうございます。手書きにしているのは、お客様との一つのコミュニケーションです。僕たちは鮮度を大切にしていて、朝収穫したぶどうをその日のうちに発送していますが、その価値を少しでも感じていただければと思って、カードを入れています。

フルフム編集部:届いた箱もデザインが行き届いてると感じました。

中村:こだわったところなのでうれしいです。2年前、イラストレーターの砂糖ゆきさんに依頼しました。パッケージの側面にぶどうが届くまでの物語が描かれているんです。例えば6月になると花が咲いているイラスト、そのあと袋かけをしてるイラスト、最後には収穫したイラストが続きます。これを提案してもらった時は震えました。

フルフム編集部:物語があっていいですね。タッチも素敵です。

中村:僕はロジカルなことは得意なんですが、デザインは苦手で、妻はデザインが得意なので、パッケージのデザインも見てくれています。

フルフム編集部:いい組み合わせですね。

中村:奥さんはとても細かいんです。早く決めてよ!って思う時もあります(笑)。ここが揃ってないとかのちょっとした違いに気づくんです。販売会のチラシやinstagramなどのデザイン監修も奥さんがやってくれています。

中村:うちの強みを考えたとき、やはり農園直送であることが最大の強みだと思い、「鮮度こそ、価値。」を掲げてやってきました。朝に収穫し、その日のうちに発送して、最短で翌日には食卓に届くという点をPRポイントにしていたところ、JR東日本さんから声をかけていただき、「はこビュン」という新幹線を利用した高速輸送のサービスで、収穫した当日に食卓に届けるという取り組みも行いました。

フルフム編集部:それはすごい!

中村:もぎたてのナガノパープルを、北陸新幹線で当日に東京に届けるというプロジェクトです。

フルフム編集部:最後に、今後やりたいことや、目指してることは何かありますか。

中村:5年以内に、果物の直売所を作りたいです。新鮮な果物や生搾りジュースなど、農家だからこそできる価値をお届けしていきたいと思います。

フルフム編集部:とても素敵ですね。

中村:人によってぶどうの好みが絶対違うと思っていて、大粒がいい人もいれば、粒が小さい方が好きっていう方もいます。さっぱりがいい人もいれば、濃い味の方がいいっていう方も。一人一人の好みを聞いて、細やかにそれを提供できるようにしたい。大変ではあるとは思ってはいるんですけど、買ってもらったすべての人にちゃんと満足してもらいたい。それが一番やりたいことですね。

フルフム編集部:また直売所ができたら見に行きたいです。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!

(来年から本格的に販売予定のぶどう三姉妹:ナガノパープル、シャインマスカット、クイーンルージュ®

なかむら果実園

果実の恵みで、人生を豊かに。
なかむら果実園は、ぶどうの一大産地である長野県須坂市を拠点にしている、1773年創業の伝統的な農園です。

https://nakamura-fruits.com

あとがき

修行時代のお話で、「新しい風を吹き込みたかった」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。実際、中村さんの祖父の代には、収穫したぶどうの約99%を市場に出荷していたのが、10代目が引き継いでから4年で、約8割をオンラインストアで直売できるようになったそうです。
マーケターとして働いてきた社会人経験や、2年間の修行で得た知識など、中村さんが新しいものを取り入れることで、農園がよりよい形に生まれ変わっていく様子に、とても明るい未来を感じました。

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