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神話や聖書にも登場する、いちじくの歴史【フルーツ古今東西】

光(こう)

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光(こう)
八百屋のお兄さん

皆さん、いちじくはお好きですか?
もしかしたら、まだ食べたことがない方もいるかもしれません。今月は、桃や梨、ぶどうのようなメインのフルーツではないですが、秋が旬のいちじくについてのお話です。普段あまり馴染みのない方も、歴史や雑学を知ることで興味が湧き、食べてみたくなるかもしれません。ぜひ、読んでみてくださいね。

いちじくの歴史は非常に古く、何千年も前の古代から人類に親しまれてきました。
その起源は中東や地中海地域とされていて、いちじくの栽培が始まったのは紀元前4000年ごろと考えられています。中東地域のメソポタミアで栽培が始まり、その後、エジプト、ギリシャ、ローマといった西洋諸国に広まっていきました。
いちじくは栽培が容易で、木も丈夫であることから、古代の人々にとって重要な食料源となっていました。また、繁殖力が強く、果実もたくさんつけるので、特に乾燥地域では重要な栄養源でした。特にイスラエルでは、「小麦・大麦・ぶどう・いちじく・ザクロ・オリーブ・ナツメヤシがある地域は非常に裕福な土地だ!」と言われるほど、昔の人たちの中でいちじくは重要な果物でした。

それだけ大切にされているフルーツなので、いちじくは世界各国の多くの神話や伝説に登場します。有名なところだと、聖書のアダムとイブのお話です。神様から食べてはいけないとされていた禁断の果実を食べて「羞恥心」を知った二人が裸を隠すために使ったのが、いちじくの葉っぱでした。いうなれば、一番最初の服の役割をしたのがいちじくということになりますね。そもそも禁断の果実自体が、りんごではなく、いちじくだったという説もあるほどです。
古代ギリシャ神話では、女神デメテルがいちじくを作って人間に与え栽培したことから、いちじくは人類史上最初に栽培された果樹として認定されています。また、女神アテナの好物ともされ、彼女の神殿の近くにはいちじくの木が植えられていました。さらに、古代オリンピックでは選手たちに提供される特別な食事としても欠かせない存在でした。現在でも、いちじくはギリシャ最古の果物として愛されており、特にエヴィア島で栽培されるいちじくは高級品種として世界的に有名です。
また、古代ローマでは、いちじくは最もポピュラーなフルーツであり、甘味料としても重宝されていました。また、「多産」、つまり豊かさと繁栄のシンボルとされ、ローマの創始者にも深く関わっています。そのため、現在でも多くの神殿や公共の場所にいちじくの木が植えられています。

古代エジプトにおいても、いちじくは「生命の木」と呼ばれ、重要な食物として信仰されてきました。ピラミッドの壁画に描かれていたり、ミイラの棺はすべていちじくの木で作られていたりと、宗教的な儀式でも使用されていたことが分かります。
イスラム教では、いちじくの木は聖なる木とされ、預言者ムハンマドがいちじくの木の下で啓示を受けたと伝えられています。そのため、いちじくの木はイスラム教徒にとって特別な存在であり、尊敬されています。
このように世界中で話題の絶えないいちじくですが、日本にはどのように伝わってきたのでしょうか。

実は、日本でのいちじくの歴史は比較的浅く、16世紀頃に中国から伝わってきました。当初は「蓬莱柿」「南蛮柿」「唐琵琶」という異国のフルーツ、という偏見の名称で呼ばれるくらい馴染みがありませんでした。なんで世界では有名ないちじくが、日本では知られていなかったのでしょうか?
実は、西洋から伝わってきたいちじくを宣教師たちが日本で栽培しようと試みましたが、大きな問題がありました。日本には「イチジクコバチ」という、いちじくの受粉に欠かせない虫が存在しなかったのです!そのため、宣教師たちの努力も実らず、西洋系のいちじくは日本に普及しませんでした。
後に、中国から伝来した「蓬莱柿」や、アメリカ原産の「桝井ドーフィン」など、受粉を必要としない品種が日本で広まりました。現在、日本で栽培されているいちじくの約8割はこの「桝井ドーフィン」で、関西方面では「蓬莱柿」も栽培されています。日本のいちじくの大きな特徴は、果実の中に虫の混入が全くないことです。

現在でも、いちじくは非常に栄養価が高く、ビタミンやミネラル、食物繊維、抗酸化物質などが豊富に含まれています。そのため、健康食品として注目されており、現代の食生活にも積極的に取り入れられています。特に、いちじくには消化を促進する効果があり、便秘や胃腸のトラブルに悩む方にはドライいちじくが有益です。
さらに、いちじくは美容にも良いとされ、肌の保湿効果やアンチエイジング効果があります。また、抗酸化物質が豊富なため、老化や病気の原因となる活性酸素を除去する効果も期待できます。このように、いちじくを摂取することで健康と美しさを保つことができるとされています。

日本ではあまり注目されないいちじくですが、世界的に見たらその歴史や文化的な背景がものすごく深い世界最古の果物として非常に面白いですよね。いちじくは単なるフルーツとしてだけではなく、人々の歴史や文化、健康に深く関わる重要な存在です。その魅力が少しでも皆さんに伝われば嬉しいです。
こうした背景を知って食べるのと、知らないで食べるのとでは、味も印象もかなり変わってくるから、フルーツというのは面白いと僕は思っています。

現代では、日本人のフルーツ離れが深刻化しています。その背景には様々な問題がありますが、一人でも多くの方に美味しいフルーツを食べてもらえるよう、そして、興味をもっていただけるよう、僕らはフルーツに関する活動をしています。
何に興味を持つかは皆さん様々だと思います。「最高に美味しい!」や「この品種が好き!」、「この生産者さんや産地の果物が良い!」、あるいは僕のように「歴史や文化が面白い!」など、どんな理由でもいいのです。単なる食事ではなく、まずは知って興味を持っていただければ、当たり前だった毎日の食事が、より美味しく楽しくなると僕は思います。

この記事を読んでいただき、いちじくの魅力が少しでも伝わったらうれしいです。
僕たち「フル愛」は、SNSやフルーツの食べ比べイベントを通じて、一人でも多くの方にフルーツの魅力と美味しさを伝え、フルーツに興味を持っていただけるよう活動しています。Xでは「#毎日の食卓にフルーツを」という活動も開催しています。フルーツを食べてハッシュタグをつけて投稿するだけで、毎月プレゼントが当たる企画ですので、よかったらご参加ください。
今後とも「FuruFumu(フルフム)」と僕たち「フル愛」をよろしくお願いいたします。

<フル愛について>
私たちフル愛は、“果物や食を通して生産者様と皆様が繋がって欲しい、果物の魅力と美味しさをもっと知って欲しい”という想いのもと、誠心誠意を込めたイベントを通して、果物の魅力を伝える活動をしています。

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アウトドア好きで海好きな八百屋さん。日々果物バイヤーの仕事をしながら、珍しい果物を探してはニヤニヤしてます。果物の勉強がてらSNSに投稿し、微力ながら果物普及活動を行っています。

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