秋も深まり、リンゴがおいしい時期になってきました。
でも、一口にリンゴと言っても、たくさんの種類がありますよね。スーパーのリンゴ売り場で「いったいどれがおいしいんだろう……」なんて悩んでしまうあなたのために、今回は農産物評論サークル「花マル農園」に、これからの時期におすすめのリンゴを10種類教えてもらいました!
年内に食べるおすすめのリンゴは?
まずはこれからの時期におすすめのリンゴを6種類ご紹介します。一般的な品種から珍しい品種まで、さまざまなリンゴがあるので、見つけたらぜひ買ってみてください!
1. 奥州ロマン®︎
流通時期:10月中旬から翌年3月ごろまで
有名な産地:岩手県 JA江刺
どんな品種?
岩手県奥州市の高野卓郎氏が育成したリンゴです。
親は早生の「つがる」と味のバランスがいい「シナノゴールド」。「奥州ロマン®︎」の名前で流通しますが、これは登録商標で、正式な品種名は「高野 5号」といいます。
外観は赤色で艶があり、所々地色の黄色が見えています。
この品種の特徴は、何といってもその硬さと甘さ。肉質は緻密で、非常に硬く、パリッと歯切れがいいリンゴです。皮はやや厚いですが、酸味はほぼ無く、ガツンとくる強烈な甘味は口の中にしばらく残るほど。果汁は「ふじ」などに比べるとやや少なめです。独特な甘い風味も魅力のひとつ。
収穫は10月ごろですが、非常に日持ちがするため、普通冷蔵で4月まで保存可能。2024年現在の新品種の中では最注目の品種で、日本各地の種苗店で苗木が販売されていますが、どこも売り切れが相次いでいるようです。
どんな方におすすめ?
とにかく硬くて、甘いリンゴが好きな方におすすめ。また、常温でも食感が維持されるので、自分の好きなタイミングでリンゴを食べたい方にも向いています。
購入できる場所
東京都内の百貨店などでは、3月頃にJA江刺から「恋桜」というブランド名で出回ることが多いです。しかし、生産量がまだ少ないため、店頭で見かける機会は少ないでしょう。現在は個人の農家さんが産直ECサイトで販売しているものを購入するのがおすすめです。
リンゴ豆知識
「奥州ロマン®︎」のように品種名と商標名で名称が異なる品種があります。これはどういう違いなのかというと、「高野 5号」は品種登録の際に用いられた名称で、「奥州ロマン」は商標登録の際に使われた名称です。品種登録とはその品種の育成者権を守るもので、登録商標は「奥州ロマン」という名称の権利を守るためのものです。
品種登録と商標登録には権利の保護期間にも違いがあり、品種登録の育成者権は25年から30年ですが、登録商標は更新し続ける限り半永久的に利用することができます。
品種登録の際はあまり名前は重要ではないので、系統番号のような名称で登録し、長期的に使われるであろうブランド名や商品名は商標として登録されるケースが近年は増えてきました。たとえば、いちごの「あまおう」(品種名:福岡S6号)やぶどうの「クイーンルージュ」(品種名:長果G11)なども商標と品種名が違うケースです。
2. はるか
流通時期:12月上旬から下旬ごろまで
有名な産地:岩手県
どんな品種?
岩手大学で育成された品種です。
交配親は特有の甘い風味が特徴の「ゴールデンデリシャス」と、蜜が入る甘みの強い「スターキングデリシャス」。この「はるか」はサビなどが出やすいため、それらを防ぐために基本的に袋をかけて栽培されており、袋をかけたものは淡い黄色の外観をしています。袋も特殊で、二重のものを使っています。
果肉にはやや弾力があり、シャキシャキとした歯切れの良い食感があります。非常に甘味が強いですが、くどさはまったくありません。ただ甘いというだけではなく、甘味には深みがあり、程よく余韻を残して消えていきます。
風味や香りも独特で、「ゴールデンデリシャス」特有のバナナ香料やカラメルのような風味があり、それが甘味に奥深さを出しているのかもしれません。蜜は入りやすい品種ですが、近年は高温の影響で入らないこともあります。果汁はやや少なめ。柔らかくなりにくい品種で日持ちはしますが、本来の味を楽しむためには12月中に食べ切って欲しいリンゴです。
どんな方におすすめ?
甘いリンゴが好きな方におすすめ。ただ甘いだけではなく、甘さに奥行きがあり、くどすぎないので、年末の贈り物にも非常におすすめです。
購入できる場所
近年では百貨店のほか、イオンなど全国展開しているスーパーでもお歳暮シーズンの高級品種として見かけるようになりました。糖度15度以上・蜜入り指数2.5以上を満たしたものは「冬恋」というブランドで販売されているので、見つけたら購入してみるといいでしょう。
リンゴ豆知識
「はるか」や「ふじ」など、一部のリンゴには蜜が入ります。「蜜入りリンゴは甘い」と好む人も多いですが、リンゴに蜜が入るのにはどんな理由があるんでしょうか。
この蜜は細胞のすき間に、ソルビトールという糖の一種が蓄積して、組織が水浸状になることで発生すると考えられています。じつは、蜜入りリンゴと蜜が入っていないものを比較すると、蜜入りの方が糖の量が多かったり、甘味が強いということはありません。
蜜が入ると、甘い香りを持ち、揮発性の高いエチルエステル類が多く蓄積することから、香りを強く感じるというデータがあります。そして、蜜の正体であるソルビトールには吸熱効果があります。
ソルビトールは果糖と比較すると甘みの感じ方は半分程度しかありませんが、独特の爽やかさを与えてくれるように思います。蜜が入ることによる食味の違いは、香りや吸熱反応による清涼感などにあるのかもしれません。
3. シナノスイート
流通時期:10月上旬から11月中旬ごろまで
有名な産地:長野県、青森県、岩手県
どんな品種?
長野県果樹試験場が晩生種の「ふじ」に早生種の「つがる」を交配して育成した品種です。
赤いリンゴで、縦縞の模様が入っています。酸味はまったくなく、親の「ふじ」よりも甘味を感じやすいのが特徴です。食感は親の「つがる」に似て非常に軽く、歯切れがいいです。硬すぎず、かといって柔らかすぎない絶妙な食感です。果汁は非常に多くジューシーで、風味・香りもつがるに似ています。
「シナノスイート」は比較的新しい品種ではありますが、シーズンになれば全国各地のスーパーでも見かけるため、購入は難しくありません。
2023〜2024年シーズンは、近年では一番リンゴの果実品質が悪い年で、とくに果肉が柔らかくなっていたものが多くありました。しかし、この「シナノスイート」は元々果肉が非常に硬いというわけではありませんが、高温下でもある程度の硬さを保っており、品質の低下が少ないように思えました。
どんな方におすすめ?
甘いリンゴが好きな方におすすめ。どこでも簡単に買える品種ですが、果肉が柔らかいものが少ないので、リンゴでハズレを引きたくない人にもおすすめです。
購入できる場所
旬の時期であれば、お近くのスーパーなどで購入できます。
リンゴ豆知識
リンゴは果実が成熟するにつれて、皮の表面にワックス状のロウ物質が分泌される「油上がり」という症状が生じます。この「シナノスイート」や「つがる」、「ジョナゴールド」などは油上がりが出やすい品種です。
食べても人体への害はありませんし、油上がりが起きているからといって、収穫してから時間の経ったリンゴというわけではありませんが、スーパーなどで油上がりの出ているリンゴは時間が経っている可能性もあります。
手で持ってみて、見た目の割に軽いと感じた場合や、皮の色が褪せているものは古くなっている可能性がより高くなるので、注意してみてください。
4. シナノゴールド
流通時期:10月下旬から翌年7月ごろまで
有名な産地:長野県、青森県など
どんな品種?
長野県果樹試験場が育成した品種。親は特有の甘い風味が特徴の「ゴールデンデリシャス」と、適度な酸味とパリッとした食感の「千秋」です。
見た目はやや縦長で、明るい黄色の見た目が印象的。ヘタの周りにはサビが出やすく、酸味はやや強いですが、それに負けない濃い甘味もあります。酸味と甘みの主張がしっかりと感じられる、バランスが取れた味わいと言えるでしょう。
そして、遠くにシナモンのようなスパイシー感があり、甘いだけではなく爽快感があるのも特徴です。食感は硬めで、パリッと歯切れがよく、果汁も多いので、噛む度に果汁の持つ甘みと風味が広がります。
食味だけでなく日持ちも優れていて、特殊な冷蔵庫で貯蔵されたものが秋口から翌年初夏まで長期にわたって流通しています。そのため、旬を過ぎた春や初夏でも、しっかりとした食感を楽しむことができます。
どんな方におすすめ?
甘酸っぱいリンゴが好きな方や、しっかりと硬くパリッとした食感が好きな方はぜひ。
購入できる場所
旬の時期であれば、お近くのスーパーなどで購入できます。
リンゴ豆知識
「シナノゴールド」は長野県で育成された品種で、「シナノ」という名前がついているものの、生産量が一番多いのは青森県です。
おなじみの「ふじ」など、赤いリンゴは温暖化の影響で、綺麗な赤色に色づかないことが増えているため、葉摘みをしたり、反射シートを引くなどの着色管理が必要になります。しかし、「シナノゴールド」のような黄色の品種は着色管理が不要なので、さまざまな産地で栽培されるようになってきています。
また、このシナノゴールドは「yello®」の商標でイタリアを始め、チリやニュージーランドなど、世界的に生産地が広がっています。
5. ふじ
流通時期:11月上旬から翌年7月まで
有名な産地:青森、長野など
どんな品種?
1939年に青森県藤崎町にあった農林省園芸試験場東北支場で生まれた品種。日持ちはしないが甘い食味と風味を持つ「デリシャス」と、酸味が強く日持ちのする「国光」を交配し、育成されました。
品種化が検討された当時は「東北7号」という系統名でしたが、1962年に育成地の藤崎町から「ふじ」と命名されました。日本のみならず、中国や欧米諸国など世界で広く栽培されている品種です。
甘みが強く、ごく僅かな酸味が味を引き立てます。肉質はやや粗く、しっかりとした硬さ。親であるデリシャスの非常に甘い風味や香りを引き継いでいます。
果汁は多く、噛んだ瞬間に豊富な果汁と共に芳醇な甘味と風味が広がります。いまさら解説する品種ではないかもしれませんが、りんごの品質が悪い年でも、「ふじ」は産地にかかわらず、食感や味などの面で「おいしい!」と思うりんごが多かったように思います。
今回掲載した品種はすべて「ふじ」に由来する品種ですし、味以外の貯蔵性や栽培性なども含めて考えると、これほど優れた品種は現時点で「ふじ」以外には存在しないのではないかと思うほどです。
また、突然変異によって収穫時期が早くなった「昂林」など、いわゆる「早生ふじ」と呼ばれる系統もありますが、味は通常の「ふじ」より劣る印象です。
どんな方におすすめ?
ジューシーなりんごが好きな方に。味のバランスもよく、クセもないので万人受けするリンゴです。
購入できる場所
コンビニから百貨店まで、どこでも入手できる品種です。
リンゴ豆知識
収穫直後の11月から12月に出回るふじは「サンふじ」と呼ばれ、袋をかけず、完熟に近い状態で収穫されたもの。味も濃く、蜜も入りやすい特徴があります。
また、本来リンゴがない3月などに流通するふじは「有袋ふじ」と呼ばれ、果実に袋をかけて栽培したものです。10月中旬から下旬、蜜が入る前の時期に収穫されます。
「有袋ふじ」は貯蔵向けに生産されるので、完熟よりも少し早めに収穫することで貯蔵性が上がります。また、蜜が入ると春先に茶色く変色してしまい、商品価値がなくなるので、蜜が入る前に収穫します。
早く収穫すると、皮の色が薄くなってしまうので、果実が小さい段階では光を通さない袋をかけて栽培します。収穫直前に袋を取ると、真っ白な果実に強い光が当たり、一気に赤く着色します。
そのため、味の面では完熟に近い状態で収穫される「サンふじ」の方が優れています。年明けに流通するのも「サンふじ」ですが、こちらは少し早めに収穫したものなので、「ふじ」を食べるなら12月がベストシーズンです。
6. ピンクレディー®︎
流通時期:11月中旬から翌年4月まで
有名な産地:長野県、青森県
どんな品種?
オーストラリア生まれのリンゴです。西オーストラリア州農業省(DAFWA)で、海外ではいまでも人気の高い「ゴールデンデリシャス」と、オーストラリア原産の「レディーハミルトン」という品種を交配し、育成されました。
正式な品種名は「クリスプピンク」といい、着色や糖度が一定以上のものを「ピンクレディー®」の商標で販売しています。クラブ制の品種で、商標を利用するためには商標権を持つ日本ピンクレディー協会への加入が必要になります。
収穫時期が遅く、暖かい地域に向いている品種なので、主な産地は長野県ですが、青森県や岩手県でも栽培が広がっています。近年は夏にニュージーランド産のものも流通することもあります。
パリッと歯切れのいい、品種名通りのクリスピーな食感が特徴。日本の品種と比較するとやや果汁が少なく、果肉の食感を楽しめます。ふじと比較するとかなり酸味が強く、甘さはやや控えめ。
収穫時期に近い12月は目が醒めるような酸味がありますが、年明け以降は酸がマイルドになり、爽やかな甘味と適度な酸味を楽しめます。
どんな方におすすめ?
とにかく酸っぱくて硬いリンゴが好きな方におすすめです。
購入できる場所
都内では銀座にある長野県のアンテナショップ・GINZA長野など。取り扱っているお店はあまりない印象です。
リンゴ豆知識
クラブ制とは、生産者と流通業者・苗木生産者などでグループ(クラブ)を形成して、そのグループ内に限り栽培や増殖・商標の利用ができるという仕組みです。
商標を名乗るにあたって特定の品質基準などを設けて品質を維持したり、生産した果実の収量などに応じて育成者権や商標権などのロイヤリティーを徴収し、その費用は新品種の育成・登録や育成者権の保護、ブランドの向上に使われます。
海外ではリンゴの生産を企業単位で行っているところも多く、栽培面積が広いので、よく用いられるシステムです。しかし、日本では家族経営の生産者も多く、栽培面積も多くないため、クラブ制度の品種はあまり広まっていません。
日本では青森県で育成された「はつ恋ぐりん®︎」(品種名:あおり25)という品種が国内初のクラブ制品種となっています。
来年の夏から秋に食べるおすすめのリンゴは?
リンゴといえば秋から冬のイメージがありますが、じつは8月から流通しています。ここからは来年の夏~秋に向けて覚えておきたいリンゴを4つご紹介します。
1. シナノリップ
流通時期:8月上旬から下旬
有名な産地:長野県
どんな品種?
長野県果樹試験場が、果実品質に優れる「千秋」と、長野県で育成された早生品種の「シナノレッド」を交配して育成した品種です。2024年現在では長野県のみで生産することができます。
収穫時期は長野県で8月上旬〜下旬にかけて。とても収穫が早いリンゴです。皮にはツヤがあり、地色はやや緑を帯びた黄色で、その上から赤く着色します。収穫が早いものにはまれに果粉(ブルーム)と呼ばれる白い粉が付いていることがありますが、農薬ではありません。
甘みは強く、適度な酸味があり、味のバランスがいい品種です。肉質は極早生の品種としてはそこそこ硬く、「ふじ」に似た、やや粗めの食べ慣れた食感。果汁も多いです。
極早生品種のなかでは日持ちのするリンゴではありますが、柔らかくなりやすいので、冷蔵保存でも1週間程度で食べ切るのがいいでしょう。
どんな方におすすめ?
酸味が少なめで、硬めのフレッシュなリンゴを夏に食べたい方に。
購入できる場所
流通量が増えてきているので、時期になると大きめのスーパーなどで購入できます。
リンゴ豆知識
この「シナノリップ」は、早生で柔らかくなりにくい品種を目指して育成されたリンゴです。
リンゴはエチレンという成分を生成します。キウイやバナナなどをリンゴと一緒に置いておくと、早く食べごろを迎えるのは、このエチレンのおかげです。成熟したリンゴは呼吸の増加とともに、エチレンの生成量も増加します。
リンゴの軟化とエチレンの生成量は密接に関連していて、軟化が遅い品種はエチレンの生成量も少ないです。エチレンの生成量は、関連する原因遺伝子が推定されているため、特定の遺伝子を保有しているかどうかを判別するDNAマーカーが開発されています。
エチレン生成量と連動したDNAマーカーを利用することで、実がなる前の幼苗の段階から柔らかくなりにくいリンゴを選抜をすることが可能になり、より効率的な選抜ができるようになりました。
そのなかから、果実品質が安定しているものを選び抜いたのがこの「シナノリップ」です。
2. 江刺ロマン®︎
流通時期:8月下旬から9月中旬
有名な産地:岩手県
どんな品種?
岩手県奥州市の高野卓郎氏が育成した品種です。親は高野氏が果実品質に惚れ込み、積極的に交配に利用した「シナノゴールド」と、高野氏が育成した品種のうち、早生でしっかりとした硬さのある「紅ロマン」を交配して育成されました。
正式な品種名は「高野7号」で、「江刺ロマン®︎」は流通時に使われる登録商標。収穫時期は非常に早く、岩手県で8月下旬から9月の上旬という極早生の品種です。
果実はやや小さく、果肉はやや黄色味がかったクリーム色。本来は赤く色づく品種ですが、猛暑の年は赤く色づかず、写真のように独特なオレンジ色になります。果実の形は扁平型です。
極早生の品種とは思えないほどバキッとしっかりした硬さがあるのが特徴。果肉はやや緻密で、クリスピーな食感。やや繊維感を感じます。
酸味はほとんどなく、持続性のある濃厚なインパクトのある甘さ。果汁の少なさが甘味を強く感じる原因のひとつなのかもしれません。「ゴールデンデリシャス」に似た、カラメルやシナモンを想起させるような甘い風味があります。早い時期の品種ですが、非常に日持ちがいいのも特筆すべき点です。
どんな方におすすめ?
とにかく甘くて硬い品種をいち早く食べたい方におすすめです。
購入できる場所
都内では銀座にある岩手県のアンテナショップ・いわて銀河プラザなどで販売される程度です。通販で購入するのがいいでしょう。
リンゴ豆知識
リンゴを味わうとき、もっとも重視されている点は食感ではないでしょうか。リンゴは適度に硬く、噛んだ時に果汁が溢れるものが好まれる傾向にあります。
おいしくないリンゴに当たってしまったときは、果肉が軟化し、粉状の食感になってしまったことを表す「ボソボソ」「モソモソ」といった表現で例えられることが多いように思います。
果肉が軟化すると果汁感がなくなり、余計に粉っぽさを感じます。この表現にも地域差があり、青森や岩手では「イモになる」、福島や山形では「ミソになる」、長野では「リンゴがボケる」などと言います。「ボケる」という表現は、関東や他産地にも広まっているように感じます。
また、果肉が軟化しやすい品種として「つがる」「ジョナゴールド」「紅玉」「王林」などがありますが、どれも収穫直後に食べると素晴らしく歯切れの良い食感を持っています。ただ、軟化が進みやすいリンゴなので、店頭に並ぶ段階でボケてしまっていることも……。これらの品種はぜひ、おいしい時期に産直で購入していただきたいです。
まれに「歯が弱くて、硬いものは食べられない」「モソモソの柔らかいリンゴが好き」「噛んだ時のシャキッとした音がダメ」という方もいらっしゃるので、そういう方々はあえてこういった品種を店頭で買ってみるのもいいかもしれません。
3. 紅いわて®︎
流通時期:9月中旬から10月中旬まで
有名な産地:岩手県
どんな品種?
岩手県農業研究センターが、早い時期に収穫ができて甘みの強い「つがる」と、アメリカ原産で黒星病抵抗性を有する「プリシラ」を交配して育成した品種です。正式名称は「岩手7号」で、「紅いわて」は流通時に使われる登録商標。現在は岩手県内でのみ生産が許されています。
見た目はやや扁平で、非常に濃い赤色と黄色い果点が散らばるのが外観上の特徴。酸味は少なく、優しくじんわり広がる優しい甘さが印象的です。風味も非常に強く、ふわっと鼻に抜ける甘い香りがあります。
食感はシャキッと硬いですが、やや緻密な肉質で硬すぎず、あまり他のリンゴにはない独特な食感です。皮ごと食べると、パリッとした食感を存分に楽しめます。果汁も多いので、甘さや風味が口いっぱいに広がります。
本来は軟化が早い品種ですが、JAから出荷されるものは軟化を抑える「スマートフレッシュ」と呼ばれる特殊な処理がされていて、非常に日持ちがします。やや値段が高めのリンゴですが、味や食感にあまりブレがないのでおすすめです。
どんな方におすすめ?
早めの時期に甘くてジューシーなリンゴが食べたい方に。
購入できる場所
百貨店の青果売り場などで購入できます。
リンゴ豆知識
従来、夏までリンゴを保存するためにはCA貯蔵庫という、気密性の高い特殊な冷蔵庫で保管し、冷蔵庫中の空気の組成を低酸素・高二酸化炭素の状態に調節する必要がありました。保管するリンゴの呼吸作用を抑え、品質の低下を防ぐのです。
ただ、この設備は非常に高価で、それなりの規模も必要になることから、青森以外の産地では導入が進んでいません。
そこに登場したのがスマートフレッシュ。エチレンによる成熟・老化作用を抑制する薬剤です。特殊な設備がなくても長期的にリンゴを保存できる画期的な技術で、岩手県では導入が進んでいます。
キウイやバナナを追熟する効果で知られるエチレンは、リンゴが自ら放出します。果実の表面にはエチレン受容体が存在していて、受容体とエチレンが結合することで老化が進んでいきます。
その受容体に、あらかじめエチレンと構造が似た物質を結合させることで、エチレンと受容体が結合せず、老化現象が進みにくいという原理です。
スマートフレッシュは大きな設備も必要とせず、比較的簡単に処理をすることができ、処理後は通常の冷蔵庫で貯蔵できるのが利点です。ただ、果実の成熟具合や品種によって効き目が変わったり、水分の蒸発や蜜の変色は防ぐことができません。
4. トキ
流通時期:9月中旬から11月上旬
有名な産地:青森県
どんな品種?
1985年に青森県五所川原市の土岐氏が育成した品種です。親は芳醇な甘みと香りを持つ「王林」と、味のバランスの良い「ふじ」。当初の交配親は「王林」と「紅月」だとされていましたが、現在では遺伝子解析により「ふじ」に訂正されています。
味が優れているため、急速に栽培が増えている品種で、名前は鳥ではなく、育成者の土岐氏に由来します。
酸味は少なく、甘味も親の「ふじ」や「王林」に似て、濃厚でとても強いです。果汁も多く、「王林」に似た、非常に強い甘い香りと風味を持っています。肉質は引き締まっていて、「ふじ」と同程度。しっかりとした硬さがあります。
暑い年でも品質が安定していて、柔らかいものはかなり少ない印象です。一般的には赤いリンゴが好まれる傾向にありますが、9月から10月にリンゴを食べるならこの品種をおすすめしたいです。
ただ、9月には未熟な果実が流通することも多いため、皮が黄色くて香りが強いものを選ぶといいでしょう。
どんな方におすすめ?
9月中旬から11月の上旬にかけて、硬くて甘いリンゴが食べたい人におすすめのリンゴです。
購入できる場所
一般的なスーパーで購入できる品種です。
リンゴ豆知識
「トキ」をはじめ、黄色いリンゴは台湾や香港などでも人気が高いです。とくに黄色い見た目が満月を想像させるようで、中秋節の贈答需要に合わせて台湾などに多く輸出されています。
また、香港などでは「エンヴィー」や「ジャズ」など、日本国外で育種された品種が多く流通していますが、海外の品種には赤いリンゴが多く、黄色くて甘い品種は少ないので、日本生まれの黄色系品種が重宝されているそうです。
まとめ
今回は農産物評論サークル「花マル農園」に、これからの時期に食べてみたいリンゴを10品種教えてもらいました。気になった品種はありましたか?
気になる品種があったら、ぜひ買って食べてみてください。この記事をきっかけに、あなたのお気に入りの品種が見つかることを願っています!