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日本のサクランボ最前線 ~今シーズン体験したい2つのこと~

竹下大学

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竹下大学
品種ナビゲーター/育種家

サクランボならではの魅力といえば、あの独特のフォルムとついつい口ずさみたくなる語感でしょう。口に入れる前から何ともいえない甘酸っぱさを感じてしまいますし、「サクランボ」の言葉にどこか懐かしさを覚えたり、心が躍ったりもします。

さて、「サクランボ」の呼び名の由来を知っていますか?
桜の子どもを意味する「桜子」なのです。山形県でサクランボの生産が始まった頃、収穫したてのサクランボを売り歩く際に「サクラゴー、サクラゴー」という売り声だったからだとか。

サクランボの収穫最盛期はわずか2週間。すぐにやってくるこの時期を逃さないように、今シーズン中に体験しておきたい2つのことと、全国の約75%を収穫しているサクランボ王国山形県の最新情報をお届けします。

サクランボの品種といえば「佐藤錦」の名前が真っ先にあがります。誰もが知っている「佐藤錦」の生産面積シェアは約64%。山形県東根市生まれ、育成者の佐藤栄助が優秀な1本を選抜したのが1924年で、「佐藤錦」の名前で販売されるようになったのが1928年でした。100年も前の品種が、いまだにこれほど多く生産されているなんて驚きですよね。

日本人好みの味と色あいの「佐藤錦」は、缶詰用から生食用にサクランボの需要が変化する過程で、缶詰用の「ナポレオン」に取って代わって大人気品種になりました。それだけではありません。「佐藤錦」は日本のサクランボ産地を守ったヒーローでもあるのです。
1978年にアメリカンチェリーの輸入が解禁された際、サクランボ産地は消費者が大きくて安いアメリカンチェリーに飛びつくことをとても恐れていました。けれども、こんな不安をよそに消費者は大きくて安いアメリカンチェリーよりも「佐藤錦」を選び、いまだに愛し続けているのです。

「紅秀峰」ならではのおいしさ

紅秀峰の写真
(写真:寒河江市)

次代のアイコンとなったスターの陰に隠されてしまい、その実力が一般に知られないままになってしまうスポーツ選手や芸能人っていますよね。サクランボでいえば、収穫量第2位の「紅秀峰」は、まさにそんな知る人ぞ知る名選手。「紅秀峰」は山形県が育成した品種です。「佐藤錦」よりも収穫時期が遅いものの、一回り大きいうえに味も濃厚。一度食べたら、誰もが「紅秀峰」のファンになってしまうだけの個性があります。

さがえ紅秀峰のチラシ画像
「紅秀峰」は山形県寒河江(さがえ)市で生まれたブランド品種 (写真:寒河江市)

サクランボ狩りならではの楽しさ

果物狩りは、写真や動画はもちろん、誰にでも楽しい記憶を残せるアトラクションですよね。どんなフルーツでも、探せば収穫を楽しませてくれる観光農園が見つかるはず。それでは、サクランボ狩りだからこその特別な体験価値は何なのでしょうか?

ここでも果実のかわいらしさと小ささが武器になります。正解は「収穫の喜びを味わえる回数がずっと多い」です。大きい果実のフルーツだと、もぐ回数がどうしても少なくなってしまいますから。

さあ、目の前にたわわに実り、隣同士で揺れ合うサクランボを想像してみてください。ほとんどの観光サクランボ園では少なくとも5品種は栽培していますし、「佐藤錦」の他に「紅秀峰」、「大将錦」、「南陽」、「ナポレオン」といった店頭ではあまり目にできない品種に出会えるかもしれません。

さくらんぼ狩りをする女の子の写真
(写真:王将果樹園

収穫最盛期間際のタイミングを狙って、山形県農業総合研究センター園芸農業研究所にお邪魔してきました。話題の最新品種「やまがた紅王」もここで生み出されました。園芸農業研究所は、「紅秀峰」「紅さやか」「紅てまり」「紅きらり」「紅ゆたか」も育成した、サクランボ開発の最先端基地なのです。
誰もが知りたい10の質問に対しては、バイオ育種部長の佐々木恵美さんが親切に答えてくださいました。

紅秀峰収穫の様子
「紅秀峰」 Y字仕立ての収穫の様子 (写真:山形県)

佐々木さん(以下、佐々木):まずは、ついついもうひとつ食べたくなる甘さと上品な香り。それから皮をむかずにパクパク食べられる点と、出荷期間が短い初夏の風物詩としての特別感でしょうかね。見た目のかわいらしさももちろんです。

佐々木:サクランボがスーパーの店頭に並ぶ期間はとても短く、1回しか入荷しないお店も多いです。なので見かけたらその場で買ってほしいですね。次の機会に買おうとしてしまい、結局買えずにその年はサクランボを食べられなかったという話はよく聞きます。

佐々木:通販やふるさと納税であれば、収穫の翌日にはお届けできる場合が多いため、どちらかの利用をオススメします。

佐々木:アメリカンチェリーは、物流時の痛みを気にして早どりしています。そのため糖度がばらついたり青臭みが残っていたりする場合があります。完熟収穫が基本の国産サクランボは、この心配がありません。

佐々木:サクランボ栽培に適した環境であることと、雨除け栽培の普及率が70%に達していて、完熟収穫が徹底されている点です。雨除けしていなかった頃は、天候によって早く収穫してしまうようなことがあり、味が安定していませんでした。いまではどんな年でも完熟のおいしい果実を出荷できるようになっています。ただし収量については、まだ安定させるまでには至っていません。
県内の観光のもぎ取り園は、年間50万人程度の観光客を集めているんですよ。

佐々木:サクランボは果実が小さいため、じつは皮のままでも乾燥しやすいフルーツなのです。みずみずしさを保つためには、パックのまま冷蔵庫に入れるのではなく、パックごとビニール袋に入れてから冷やすようにしてください。

佐々木:「佐藤錦」の人気がいまだに衰え知らずだからです。「佐藤錦」で満足という消費者が多い状況はなかなか変わりません。「佐藤錦」より早生の「紅さやか」も晩生の「紅秀峰」もどちらも片親は「佐藤錦」で、おいしさで引けをとることはないのですけれども。スーパーで「佐藤錦」、通販やふるさと納税で「紅秀峰」をと、ふたつの味の違いを楽しんもらえるとうれしいです。

佐々木:500円玉程度の大きさになる「やまがた紅王」の今年の生産見込みは山形県産の0.5%、70トン程度と予想しています。来年は1%、140トンに増える見込みです。
また、産地も「やまがた紅王」の導入にとても積極的で、ここまでの勢いで栽培面積が増えている品種は過去に例がありません。改植から期待した量を収穫できる成園化まで 、通常の樹形では10年以上かかるため、Y字樹形等の新型樹形での生産を推進しています。

佐々木:食感はさくっとして、味は酸味が少なめ。あとをひくおいしさが特徴ですね。無理に例えれば、どことなくシャインマスカットに通じる感じでしょうか。

佐々木:今年は「やまがた紅王」が産地に植えられてから7年目に当たります。サクランボは1本の木で期待する量がなるまでには10~15年かかります。したがってまだあと5年ぐらいはかかってしまうかもしれません。「やまがた紅王」を少しでも早く味わってみたければ、通販やふるさと納税で早めに注文するか、山形のサクランボ産地の産地直販所で購入するのがお薦めです。

やまがた紅王大玉コンクールの写真
「やまがた紅王」大玉コンテストは10粒の重量だけで競われる。1位の重量は142.6gだった(2024年)。 (写真:山形県)
R6やまがた紅王大玉コンクール1位 販売用パッケージ
2024年第2回「やまがた紅王」大玉コンテスト1位、5Lサイズが並ぶ (写真:山形県)

いかがでしたでしょうか?
サクランボを食べてみたくなりましたでしょうか?

一瞬の収穫期を逃さず、初夏の風を感じサクランボを味わいながら、心に残るひとときをお楽しみください。

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フルーツライター

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