
フルーツは好きだけど、皮むきは苦手…。そんな皮むきがあっという間にできる「皮むき機」を取材してきました!
フルーツの表面に沿って滑らかに動くピーラー。あっという間にむかれていく皮。仕上がりは美しく瑞々しい。皮も薄くて無駄がなく、機械もコンパクト…!
株式会社アストラさんとの出会いは、この見事な皮むきの動画でした。
素人ながら圧倒的な技術力を感じ、これは間近で実際に見てみたい…と、製造販売をしている株式会社アストラさんへお問い合わせ。すぐに取材を快諾いただき、出張が決まりました。
株式会社アストラさんのある福島県福島市は、あちこちでフルーツを栽培しており、さくらんぼ、もも、なし、ぶどう、りんごなどが1年中楽しめるフルーツ王国。本社のすぐ側にもりんご畑がありました。

お話を伺ったのは、株式会社アストラの国際営業部 部長の竹下遼さん、技術開発部 電子制御課 課長の狩野孝弘さん、そして代表取締役の一條浩孝さんです。
皮むき機は、干し柿からスタートし、今やリンゴ、オレンジ、桃、パイナップルまで自在にむけるコンパクトな機械を開発。国内のJA(農業協同組合)との強い連携はもちろん、海外展開も順調で様々な国へ輸出しているそうです。

多種多様なフルーツに見事に対応した皮むき機
フルフム編集部(以下、編集部):動画で拝見した皮むきの機械を実際に見せてもらってもよろしいでしょうか?
狩野さん(以下、狩野):この白いボディの機械ですね。こちらは「瞬助」と言います。約6kgで小型のタイプです。
竹下さん(以下、竹下):うちの看板商品ですね。2024年の10月にモデルチェンジしました。

編集部:この機械、本当に小型ですね!持ち運びしやすそうです。
狩野:パネルで材料(フルーツ)を選び、皮むきの設定をします。選んだ材料の自動設定のままでもいいですし、細かい調整もできます。
竹下:皮むきと一言でいっても色々考えることがありまして、皮の厚さやむくスピード、材料の柔らかさや形などを考慮した設定が必要です。「瞬助」は、1台で色んなフルーツに対応できるんですよ。

編集部:わ!かわいい。フルーツのイラストが出てくるんですね。材料ごとの自動設定ってどうなっているんですか?
狩野さん:例えは、 桃なら果肉が柔らかく皮が毛羽立っていて、中心にでかい種が1個あると。そういった複合的な特徴を加味して、どこからむき始めてどこで終わるや、スピードがどのくらいならむき残しがないか、あらかじめおすすめ設定っていうのがあります。
ひとシーズンで同じフルーツばっかり何百個もむいた結果、ベストな設定を導き出してあるんです。
また、リンゴの中でも特別な品種だけというお客さんもいらっしゃるので、さらに細かく個別にカスタマイズできるようにもなっています。
竹下:カスタマイズが命みたいなところもあります。
例えば、日本でリンゴっていうと丸をイメージしますけど、海外に行くとそうじゃない形がたくさんあって。品種によって全然違うんですよ。
国内が不作で、ニュージーランド産が入ってきたりすると、お客様からむき具合が変わったという電話がかかってきたりして、その時は設定変更のアドバイスをします。
編集部:なかなか奥深いですね。決まった形でないものに対応するには、様々な工夫や技術が必要そうですね。
設定が終わったらフルーツをこのピンに刺すんですね?

竹下:このピンの形状とかも紆余曲折あって、それだけで話長くなるんですけど…1本だとグルグルしてしまったり、4本だと多すぎる。ただ、5本のやつもあったりとか、変な形状のやつもあったりとか、材料によって色々あります。
編集部:刃の種類もたくさんあるんですか?
竹下:ギザギザのやつと平らのやつがあります。
オレンジとかって皮がゴツいじゃないですか。ああいうのはギザギザじゃないとむけないけど、リンゴみたいなツルツルした材料は平らの方がむきやすいですね。

オレンジの皮むき実演
狩野:準備ができたのでオレンジをむいてみますね。
編集部:おぉー!!すごい!本当にめちゃくちゃ早い!そして綺麗!めっちゃすごくないですか??これ!!(テンション高)

編集部:ちょっと皮を広げますけど…かなり薄い!無駄がないですね。なんだか皮まで美味しそう…。

狩野:お客様によっては、表皮と白いところ(アルベド)と果肉って3つに分けられて、それぞれ資源化されていますね。
竹下:表皮でアロマがとれたり、白いところでペクチンがとれたりします。
狩野:オレンジって、種類によって実が上に寄ってたり下に寄ってたりして、皮は必ずしも同じ厚みじゃないんです。 なので、その微調整もできるようになっています。
編集部:むき上がりが本当に綺麗ですね!美味しそう。
竹下:果汁のロスも少ないです。水分が下に溜まったりもしないので。
狩野:酸化しにくいというのも強みです。例えばリンゴをこの機械でむくと、2〜3時間は茶色くならないですよ。
親孝行から始まった初号機、干し柿用皮むき機
編集部:皮むき機はどうやって生まれたんですか?
狩野:初めは、干し柿を作るための柿の皮むきからスタートしました。
編集部:柿なんですね。
狩野:弊社の社長のご実家が柿農家なんです。伊達市であんぽ柿を作られていて。ですが、社長はその農家を継ぐのが嫌で、工業製品を作りたいという考えがあったようですね。
社長のお母様が干し柿を作っていて、機械を使っていたそうです。それは、柿をピンで刺して回し、自分でピーラーでむくもので、使っていると手が疲れて痛くなってしまうんだとか。それをなんとかしたくて、半分親孝行みたいな感じで疲れない機械を考えたそうです。
吸引式で、 レバーでスピードを自由に変えられる機械です。
編集部:お母様のために!それは素敵ですね。吸引式とはなんですか?
狩野:柿のヘタを吸盤に真空で吸い付けることです。最初はヘタに針を刺していたんですが、ヘタ周辺のカビの菌などが針で中に入ってしまい、簡単に干し柿がカビてしまうんです。そうすると、品質がガクッと下がり産地の信頼が落ちてしまう。
それは良くないってことで、全国各地の柿農家が「脱針」といって針を使わず、吸引でむくことになりました。現在は真空吸引式がほぼ主流です。
竹下:ただ、デメリットもあって、わずかな果汁が機械の中に溜まって、それがめちゃめちゃ粘っこいんですよ。それで掃除が大変で我々もメンテナンスに手間をかけないといけないんです。
狩野:そうなんです。干し柿の時期になるとみんな現場に行くので、会社にはあまり人がいないですね。開発する人間も現場に行ってお客さんと直接話してこいっていうのが会社のスタンスなので。それで、「特定のところに汚れが溜まる」と現場で聞いたら、帰ってきて次の年までに改良する。そういったことを繰り返しやってきました。

編集部:開発のかたが現場に来て直接話をきいてくれるのは、機械を使う側も相談しやすいですし有り難いですね。
狩野:他に特徴としては、干し柿っていうのはむき残し厳禁なんですよ。
柿のヘタのすぐ側から先端まで完璧にむいて欲しいと。品種ごとに柿の大きさや、角ばってたり、丸まってたり全然違うんですが、うちの機械はちょっと調整するだけで、ねじを緩めるとか幅を変えるとかってせずにむけるってことで重宝されていますね。
竹下:あとは、表面の綺麗さも要求されますね。干し柿は見た目の美しさも大事です。それらを実現していった結果、様々なものがむける現在の機械「瞬助」が生まれたり、パイナップルを樽状にむいたりといった技術に繋がります。
狩野:難しいところから入っていったんで、他はすべて応用でできてしまうっていう感じです。

~ここからは、代表取締役の一條さんも交えて会社のことや想いなど伺いました。〜
代表取締役の想い

編集部:一條さんのご実家が柿農家だったと伺いました。機械作りは親孝行から始まったとか。
一條さん(以下、一條):私の実家は100年以上前から代々干し柿農家だったんですね。それが私の代で途切れてしまったんですよ。だけど、今の事業をやることによって干し柿に貢献できるようになった。
これが私としては非常に嬉しいんですよ。農業に携わることができて、お役に立てるようになって。だから、農家が使って使いやすい機械っていうのは目指していますね。
編集部:干し柿の皮むき機の会社は何社くらいあるんですか?
一條:最初は4社くらいありました。今はもう全国で柿の皮むき機をやってるのはほぼうちの会社だけになってしまって、非常に責任は重いですよね。うちが辞めたら混乱が起きてしまう。
編集部:アストラさんは干し柿業界にとっては無くてはならない存在ですね。
パイナップルの皮むき機の開発
編集部:色々見せてもらったのですが、パイナップルもむけるんですよね?他と皮の感じが違うので、ハードルがありそうだなと。なんでこれに挑戦しようと思ったんですか?
一條:私が中国の深センに視察に行ったのがきっかけなんですよ。アリババのスーパーを見学したんですが、カットフルーツを手で切ってずらっと並べてくんだけど、もう次々に売れてくんです。
もしここで機械でむいたらすごく見栄えもするし、効率もあがる。市場があるのは、実はパイナップルなのかなと思って。そのときに海外進出も考えていました。それで、帰ってきた時に「よし、作るぞ」と始まったね。
狩野:うちの機械の中に柿のヘタ取り機があって、かなり頑丈な刃なんですよ。それで社長がこの刃を長くしたらパイナップルもいけるんじゃないか?と言って、それでじゃぁ作ってみようかと。社内に溶接が得意な人がいてすぐできてしまって。
編集部:確かに、柿のヘタってすごく硬いですもんね。丈夫そうです。
狩野:柿を吸い付けて回す機械2台を適当に組み合わせて、試作機を作りました。溶接した大きなピーラーのところだけ社長が手で持って。パイナップルを挿して、ピーラーをぐいっと手動で当てたら綺麗にむけて「いける!」となりました。
狩野:最終的には、何百回ってトライして今の形になりました。実際に動かしてみますね。
編集部:おぉー!見事にむけましたね!本当に速い。そして皮の硬さを全く感じないですね。
狩野:動作音が一定のモーター音じゃなくて、音が変わってるんですけれど、それはスピードが変わってるんですね。だから、お客さんのから機械がおかしいと連絡がきた時に、電話口で音を聞いただけでどこがおかしいかわかります。
編集部:かっこよすぎる!プロの耳ですね。
今後の展開や開発中の機械について
編集部:国内では、どういった方に皮むき機を導入して欲しいですか?
竹下:例えば瀬戸内レモンとか、地域ごとのブランドに向けて売り込みたいというのはありますね。
一條:あとは、農家に加工までやっていただきたいです。材料だけの販売だとどうしても安かったりして。なんとか加工までやれればね、付加価値を高めることができればいいなと。
編集部:会社の社風や今後の展開についても教えてください。今、社員さんは何名いらっしゃるんですか?
一條:25名です。25人しかいないのによくやってるなとは思います。モノを開発して、資材を集めて作って、海外でも売って、人数は少ないですけど、極めて優秀な社員たちです。
狩野:言葉を変えていうと『変態』なんですけど(笑)
編集部:精鋭たちが集まっているんですね。今、新たに開発しているものはありますか?
一條:日々、新しいものに向き合っていますね。
狩野:あまりお話しできませんが、大型のものにトライしています。
竹下:インパクトのある、アストラの未来を変えるようなものも…。
編集部:それは楽しみですね!!期待大です!
狩野:これだけ皮むきのことで頭をいっぱいにしてる人間、世界中探しても多分私たちだけだと思います。(笑)
竹下:たまに変わった材料が入ってきて、皮がむけないことあるんですよ。その時の社長はじめ開発人たちはなんか顔つきが変わりますから。(笑)
編集部:わー!プロフェッショナルって感じです。熱い瞬間ですね!
あとがき
皮むき機「瞬助」の詳しい使い方や実演から始まり、初代の柿の皮むき機や、海外展開を意識したパイナップルむき機などたくさんお話を伺うことができました。
動画で何度も皮をむくところを見ていたのですが、やはり目の前でくるくると皮がむかれていくのを見ると感動が大きかったです!
機械自体は業務用ですが、普段煩わしい皮むきが、瞬く間にできてしまうことに夢を感じました。
開発からデザイン、営業、販売、そしてアフターサポートまでを一貫して行い、世界が驚く技術の“皮むき機”を作っている株式会社アストラさん。
機械の品質はもちろんですが、開発への意欲や熱意が本当に素晴らしく、会社の雰囲気も温かくてとても素敵な会社でした。
