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フルーツのワークショップも!奈良県五條市、堀内果実園「Land」で広がる農産物の楽しみ方

竹下大学

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オリジナルかき氷やフルーツどら焼きを作れるワクワクあふれる空間が、2025年8月、奈良県南部の五條市に誕生しました。そこは、この地で明治36年から続く堀内果実園の6代目、堀内俊孝さんが13年の構想を経て完成させた新感覚のお店「Land」です。

「Land」のコンセプトは「育てることと、食べることが地続きになった体験」。おいしいフルーツをただ”味わう”だけのお店ではありません。店内のあらゆる場所でフルーツ新体験を”体感する”場所なのです。老若男女、観光客も地元の人も、それぞれが思い思いの楽しみ方で過ごせます。

1. ラボ体験(ワークショップ)

・オリジナルかき氷作り:好きなフルーツとソースで自分だけの一品を
・フルーツどら焼き作り:生地から焼いて、お気に入りのフルーツを挟んで

2. カフェ

・スイーツ:MEGURIパフェや季節果実のチーズケーキなど
・サラダプレート:旬の果実とローストポークを合わせたボリューム満点の一皿
・五條の食材にこだわった食事メニュー各種

3. ショップ

・旬の厳選フルーツ
・堀内果実園の加工食品
・五條市や各地のこだわり商品(肉製品、クラフトグッズなど)

4. 果物狩り体験

・カキ、ブドウ、ブルーベリー、イチゴ、スモモ、カンキツ

天気の良い柿果樹園内に軽トラが止まっている風景
(写真:堀内果実園)

奈良・吉野。名峰金剛山の麓に広がる五條市は柿の生産量日本一を誇ります。堀内果実園は、この地に明治36年から続く果樹園。標高約400メートルの土地を切り拓き、最初に植えられたのは柿の木でした。以来120年を超えて、12ヘクタールにおよぶ広大な土地で、カキ、ウメ、スモモ、ブドウ、カンキツ、ブルーベリー、イチゴ、カリンなど様々な果物を育てています。

2001年からは、あんぽ柿やドライフルーツといった加工食品を自社で大量生産するようになり、その名を全国に知られる存在になりました。
2017年以降は、奈良・大阪・渋谷・東京ソラマチと4つの直営フルーツショップ「堀内果実園」を展開。近くに住んでいるフルーツ好きであれば、きっと何度か訪れたことがあるのではないでしょうか。

堀内社長によれば、現在、堀内果実園の来店客の約半分は海外からの観光客だそう。自国で食べる果物と日本産果物の味の違いに驚き、そのおいしさが口コミで世界中に広がっている証拠でしょう。
堀内果実園に足を運びたくなってしまう理由を、堀内さんはこう語ってくれました。

「うちの特徴は農家の目利き力だと思います。多品目を自社で生産加工しているからこそ、収穫から調整までを知り尽くしたスタッフが、ベストな状態の果物を選び抜いて提供できる。加えて、どの果物をどう使ったらそのおいしさを一番引き出せるかも知っている。この目利き力は、果物を仕入れているだけのお店ではなかなか身に付けにくい。だからカフェメニューにも加工食品にも自信がありますね」

堀内さんの言葉に、生産者ならではの誇りがにじみます。

堀内果実園 代表取締役 堀内 俊孝さん
堀内果実園 代表取締役 堀内 俊孝さん
堀内果実園「Land」の外観

この夏、堀内社長が満を持してオープンさせたのが新業態「Land」です。構想13年、堀内さんが温めてきたアイデアをすべて盛り込んだ食体験施設がついに形になりました。

「農産物は工業製品と違い、人の手の丁寧さが付加価値になる。そのことを消費者に感じてもらえる場所をどうしても作りたかったんです。他の産業と比べて農業はなぜか一段低く見られてしまっている。生活に一番重要な食を担っているのが農業なのに」

終始穏やかだった堀内さんの表情が、この時だけは急に鋭くなりました。

「それにもかかわらず、いい加減な情報が簡単に広まり、消費者がそれに振り回されてしまう状況は、日本の将来にとって決してよいことではありません。もちろん、情報発信に積極的でなかった農業者側にも問題はありますが……」

「だからこそ、『Land』では果物以外の食材も積極的に取り扱うようにしたんです。食事を提供するのもそうですし、ショップでは肉製品やクラフトのグッズまで販売します。ここ五條に人を呼びたいだけでなく、同時に全国各地で地域創生に取り組んでいる人たちの商品も紹介したいですから」

堀内さんの言葉からは、おいしさや楽しさだけでなく、農業そのものを消費者が見つめ直す機会を提供したいという想いが伝わってきました。

堀内さんの想いは、自分で作るかき氷や、生地から焼くどら焼きのワークショップ体験やカフェからも感じられます。
果物やソースの組み合わせ、飾りつけなど、ついついSNS映えを気にしてしまいます。もちろん一緒に作る人へのライバル心も。誰もが夢中になってしまうワークショップは、忘れられない思い出になるでしょう。

堀内果樹園Landカフエメニュー「雪かき氷」の写真
雲かき氷(写真:堀内果実園)
堀内果樹園Landカフエメニュー「どら焼き(フルーツ・さつまいも)」の写真
どら焼き(フルーツ)とどら焼き(さつまいも)(写真:堀内果実園)

カフェでは、色とりどりのフルーツをたっぷり使ったスイーツに目移りが止まりません。
食事メニューでの一番人気はサラダプレート。旬のフルーツに地元産のこだわり豚のローストポークを合わせたボリューム満点の一皿です。「果物=デザート」という固定観念を覆した新提案です。

堀内果樹園Landカフエメニュー「季節果実と自家製ローストポークのサラダプレート」の写真
季節果実と自家製ローストポークのサラダプレート(写真:堀内果実園)
堀内果実園「Land」カフエの内観
(写真:堀内果実園)

「Land」の店内は、外観からは想像できない広さと抜け感たっぷりの空間で、おもてなし気分を満喫できます。席に着き、ガラス越しに視界に入る加工場やそこで働くスタッフを見ていると、水族館の巨大水槽前で食事をしているような、いつまでも眺めていたい気分になってきました。2階で食事を終え、1階のショップで手に取ってみた加工食品の1袋。これがただのお土産品ではなく、筆者にとっては今日ここで体験した物語が詰まった特別な商品に変わっていました。
食事をしただけでこんな感覚になってしまうのですから、オリジナルかき氷やオリジナルどら焼きを作った人の気持ちは、もっと大きなものでしょう。

席から加工場を見下ろせる
かき氷用のキッチンの様子(堀内果実園「Land」)壁には氷旗が飾られ、ショーケースにたくさんの桃が並んでいる
色々なフルーツワークショップができるラボ
(写真:堀内果実園)

堀内さんが「Land」の先に見据えているのは、日本農業の未来像です。

「このままでは日本の農業はダメになってしまう。農業者にばかりしわ寄せが行く状況を変えないと。そのために、消費者の喜びが農業者の生産意欲を引き出す好循環を作ってみせたいんです。果物離れが止まらない状況においても、果物で新たな消費が掘り起こせるということを」
「国産果物がいま置かれている状況は、日本の伝統文化と同じ。時代の変化に合わせて誰かが継承しない限り廃れてしまう。農業者と消費者の両方の立場で」

堀内さんのこのひと言には、筆者もハッとしました。
SNSなどで、自分は果物文化の継承者のひとりだと意識して発信するだけで、誰もが豊かな日本の食を未来に繋ぐことに貢献できるからです。

スーパーの農産物は、どうしても「安さ」と「鮮度」ばかりが注目されてしまいます。しかし堀内さんはこう断言します。

「大切なことを私たち農業者は伝え切れていません。それは、人の手で育てた丁寧さと最高の状態での味わいです。消費者にこの2つを体験してもらえれば、農産物はもっと高くても必ず満足してもらえます」

だからこそ「Land」には、あらゆるところに来店者にとっての新たな体験につながる仕掛けが用意されています。堀内果実園「Land」は、楽しみながら農産物の真の価値を実感できる新感覚の食体験施設でした。

関西圏にお住まいの方なら、週末の小旅行に「Land」を。遠方にお住いの方なら、関西を訪れるついでに奈良・五條の旅を計画してみてはいかがでしょうか。

2階のテラスから眺める金剛山、そして金剛山から運ばれてくる澄んだ風。「Land」で味わうフルーツと体験は、あなたの心においしさ以外の何かもきっと残してくれることでしょう。
堀内果実園「Land」は、フルーツの新しい楽しみ方を発見できる貴重な施設です。生産者の想いと丁寧な仕事を体感しながら、日本の果物文化の豊かさを再発見しに行ってみませんか。

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品種ナビゲーター/育種家

品種改良の歴史と食文化の切り口から、果物の知られざる魅力を伝えています。

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