
青森県といえば「りんご」を思い浮かべる方も多いでしょう。実際に、青森県で暮らす筆者の周りには、多くのりんご畑が点在しています。
りんごの美しい赤い色は、自然にまかせてできるものだと思っていませんか?農家さんの手間と工夫によって、色ムラのない美しく色づくりんごが育てられているのです。今回は、青森の農家さんに取材し、その作業の裏側を見せてもらいました。
葉摘みと葉取らず — 二つの栽培方法
取材に伺ったのは9月上旬。この時期は、りんごの葉摘み(筆者の周りのりんご農家さんは「葉取り」とも呼んでいます)といわれる作業の真っ最中でした。
葉摘みとは、色付けのためにりんごの周りの葉を一枚一枚手で取る作業のことです。りんご全体に日光を当てムラなく赤く着色させるために、りんごのツル元に密着している葉や光を遮る葉を摘み取ります。贈答用などでも喜ばれる、色ムラのない美しいりんごに仕上がります。
ただし、葉を摘みすぎると光合成が減り、栄養分がりんごに行きわたらないというデメリットもあります。できるだけ葉を残すことを意識しながら、りんごに影を作る葉だけを取っているのだそう。
一方で、葉摘みをできる限り行わない「葉取らずりんご」という栽培方法もあります。青森県では30年ほど前から取り入れられてきました。
葉が多く残るため光合成量が増え、栄養が十分に実に行きわたるので、糖度が高く濃厚な味わいを楽しめます。
葉の影になる部分は着色が進まず、赤色の中に黄色や緑色が残るなど見た目に色ムラができやすいので、市場での評価が分かれることもあります。


来年の実りを守るための細心の注意
葉摘みはただ葉を取ればよいという単純な作業ではありません。
力の入れ方を誤ると実が落ちてしまうため、葉の付け根方向にやさしく引っ張ることがコツなのだそうです。
さらに大切なのが、「花芽(はなめ)」を残すこと。
花芽とは、来年りんごになる“芽”のことで、9月頃にはすでに出てきているのだそう。花芽を摘んでしまうと来年の収穫が減ってしまうので、非常に大事な部分なのです。葉と一緒に誤って取らないよう、細心の注意を払っているとのことでした。
葉摘みは、見た目の美しさを追求する一方で、職人のような経験と細やかな感覚が求められます。目の前のりんごだけでなく、来年の実りまで見据えながら作業をしているんですね。

りんごを均一に色づける「玉回し」
葉摘みと同時に行われる、もうひとつの重要な色付け作業が「玉回し」です。(筆者の周りのりんご農家さんは「ツル回し」とも呼んでいます)
りんごは太陽の方を向いている面は赤く色づきますが、反対側は色づかず黄色や緑のまま残ってしまいます。日光が当たりにくい場所を赤くするために、ひとつひとつ丁寧に手で回転させ、まんべんなく光が当たるよう向きを変えてあげるのが「玉回し」です。
この作業も、もちろん全て手作業。りんごがツルから取れないように優しく、でも確実に回していきます。絶妙な力加減が必要で、まさに職人技といえる作業です。
玉回しは1本の樹だけで1時間以上かかることもあり、それが全ての樹に対してなのでとても手間のかかる作業だと、今回お話を伺った農家さんは教えてくれました。
下から光を当てる「シルバーシート」
葉摘みと玉回しの作業と並行して、樹の下に銀色の反射シート「シルバーシート」を敷きます。
シルバーシートは、地面に反射した太陽の光を下からりんごに当てるためのものです。りんごの下面や光が当たりにくい中のりんごにも日光を当て、りんご全体が色ムラなくきれいに色づくようにする効果があります。
このシルバーシートは、全てのりんごの樹の下に敷きます。これもまた手作業で一枚一枚敷いていくので、かがんだ姿勢が続き、腰への負担も大きく、大変な作業だと教えてくれました。

美しく色づくりんごの裏にある手間と工夫
近年、「葉取らずりんご」を選ぶ農家さんも増えているそうです。その背景には、人手不足や高齢化という大きな課題があります。
葉摘みは、1本の樹になる何十個ものりんごを、一つひとつ手作業で行わなければなりません。時間も体力も必要な作業ですが、農家さんの多くは高齢で、無理がきかないのが現実です。そのため、労力の少ない「葉取らずりんご」へと切り替えるケースも増えているのです。
人手不足や高齢化が進む中でも、手間を惜しまず、美しく色づいたりんごを育て続ける。その姿勢からは、喜ばれるものを届けたいという思いが伝わってきました。
今回の取材を通して感じたのは、私たちが普段何気なく食べている美しく色づくりんごは、決して当たり前に実っているものではないということです。
葉摘みや玉回し、シルバーシート敷きといった数々の作業を重ねてこそ、その鮮やかな色が生まれます。これからりんごを味わうときには、そんな農家さんの努力を思い浮かべながら口にしたいと思います。

